おさらいとして、条文は刑訴規則131条が重要である。
「鑑定のためにする被告人の留置については、この規則に特別の定のあるもののほか、勾留に関する規定を準用する」
このおかげで、鑑定留置状謄本(=勾留状謄本)も入手できるし、準抗告も出来る。ついでに鑑定留置理由開示公判も請求できるということになる。

さて、先例として、岐阜地決平成27年10月21日というのが手元にある。たまたま入手したものであるが、現在は判例秘書に掲載されている(確認済み)。同決定は、本件と同様に年末年始を挟み3ヶ月半の鑑定留置期間の決定をした案件であるが、「本件は、その具体的な犯行状況等のみをみると、必ずしも精神障害の影響があったと直ちにはうかがわれない事案であり」との点を主たる理由として、更に予想される終局処分内容も加味して、「被疑者に対しては、まずは、短期間で実施可能な簡易鑑定を行うなどして本格的な精神鑑定の必要性を吟味すべきであって、これを経ることなく、直ちに本格的な精神鑑定を行うことを前提とした3か月以上の期間にわたる身柄拘束を認めることは、被疑者に対して過度の負担を強いるもの」として、14日に限った鑑定留置期間のみを認める変更決定をしたものである。
「その1」でも指摘したとおり、法定の身体拘束期間に対し著しく長期の身体拘束を可能にする制度である分、(おそらくは比例原則的観点から、)軽々にいきなり長期間定めるのではなく、本格的にやらなければならないかを見極める限度での期間を定めなければならないとしたもので、分かりやすく先例となるべき決定であろう。

更に調べると、判例秘書掲載事案でもう一つ、大阪地裁堺支部平成8年10月8日決定というのもあった(こちらは判例時報1598号にも掲載されている)。この事案は、当初3か月と定められた鑑定留置期間が準抗告で一月に短縮され、担当医が「それでは足りない」として更に一月を要求したのに対し、「鑑定留置が被疑者について相当長期の継続的な身柄拘束を伴う処分である以上、その期間延長の当否を判断するに当たっては、右のような鑑定作業の進み具合や所要時間を考慮しつつも、被疑者の身柄拘束期間と当該事案の軽重との間の権衡等をも総合勘案し、当該事案について鑑定を遂げる上で、更に被疑者の身柄拘束を継続することが必要かつ相当かを検討しなければならない。」と正面から述べ、相当期間はせいぜい一月であること、逃亡のおそれがないこと、在宅でも鑑定作業は続けられる等として、延長を認めた原決定を取り消している。

公刊されている先例は非常に乏しく(ちなみに、前掲堺支部決定については、三井誠教授が重要判例解説で取り上げ「稀な事案」とされている)、判例秘書で平成年間を総ざらえしても、実体判断をしているのは上記2件しか見当たらない。司法統計だと年間全国で500件くらいは起訴前鑑定留置をしているようなので、公刊物登載がもっとあっても良さそうなものであるが、やはり(自戒を込めて)弁護人の問題意識が立ち後れているのかと思わされるところである。

ただでさえ稀で、しかも「その3」で述べるとおり鑑定留置理由開示公判を敢行しても暖簾に腕押し、糠に釘の風では、ますます弁護人は膾炙しづらい領域ではあるが、とはいえ、「せいぜい一月」と言い切れる場合もあるのだから、より敏感に、感じ取り、携わりたいものである。

(その3に続く)

(弁護士 金岡)