さて、鑑定留置理由開示公判の理由である。
改めて説明すると、本件は、私の目から見て責任能力が問題になりそうとは思えない事案であった。そして、黙秘権行使の実効性を高める上でも弁護方針として鑑定には協力しないという立場を採用した。そうなると、鑑定は必要か?可能か?ましてや3ヶ月半はどこからきたのか?という疑問が湧くのは自然である。
どうして3ヶ月半の鑑定留置が正当化されるのか、それが知りたいなら、憲法34条後段の出番である。「その2」で書いたように、鑑定留置理由開示請求が可能である。争う方向ならこれを活用しない手はない。

そこで本件でも、鑑定留置理由開示請求をしたのだが、「その1」で書いたように、およそまともな理由は開示されなかった(担当は、鑑定留置決定をした阿部照彦裁判官)。

裁判官の積極的な説明はこうである。
「本件犯行前の被疑者の言動、犯行状況及び被疑者の通院歴からすると、本件犯行当時における被疑者の精神状態、是非善悪の判断能力、その判断に従って行動する能力の有無及び程度、本件犯行時における被疑者の精神疾患の有無、それがあるときは病名、症状及び程度、精神疾患があるときに、その精神疾患が本件犯行に与えた影響の有無及び程度等を判断するために、被疑者を鑑定留置する必要があるものと認める」

見事なまでの無内容さである。心理学的要素と生物学的要素を勘案して責任能力の判断をするために鑑定留置の必要があると考えたのが鑑定留置の理由です、といわれて、なにか一つでも、鑑定留置理由が明らかになったと言えるのだろうか。
言い換えれば「判例に従い責任能力の定義に忠実に判断しました」というだけである。実に無意味である。

勾留理由開示制度の趣旨は、裁判所の恣意的な身柄裁判を監視する役割のみではなく、これに加え、不当な身柄拘束を回避し,取り消し請求を有効に行う便宜を与えるというところに求められよう(不利益処分の理由開示は、一般論として、このように捉えられている)。「判例に従い責任能力の定義に忠実に判断しました」といわれても、制度趣旨は一欠片も満足しない。

そこで当然、求釈明を申し立てたわけだが、これがまた悲惨な有様だった。
Q1)精神鑑定の必要性があると認めたのか?
A)答えない
Q2)どのような精神病名を疑ったのか?
A)答えない
Q3)鑑定医の氏名所属を明らかにせよ
A)答えない。相当な鑑定医を選任した。
Q4)3ヶ月半の鑑定留置期間の根拠は
A)継続的な問診、検査をするのに必要な期間として鑑定人の意見を聞き、相当な期間として判断した。具体的理由については答えを差し控える。
Q5)黙秘権を行使すれば継続的な問診など不可能ではないか。
A)答えない

いやはや。まだゴミ箱と話をした方が会話が成立しそうな体験であった。
鑑定留置理由として、精神鑑定の必要性があったことすら答えない。精神病名も、医師の氏名も所属も答えない。3ヶ月半という長期間にした理由も答えない。
常々言うのだが、人の痛みを知ろうとしない方は、裁判官でいるべきではない。人の痛みに敏感であろうとしないでどうして不利益処分に謙抑的になれるだろうか。自分に精神鑑定は不要だ、鑑定にも協力しない、と述べている被疑者がいて、弁護人がそれに同調しているのだから、その不利益処分に謙抑的であるべきではないかと自問自答し、不利益処分に不服があるなら不服申立の便宜が図れるように(つまり自身の不利益処分を正々堂々と批判に晒すように)判断過程を出来るだけ明らかにするのが、あるべき姿だろう。
答えない答えないで逃げ回り、文句があるならよそでやってよという姿勢は、憲法に不忠であり、裁判官として落第である。

(その4に続く)

(弁護士 金岡)