3ヶ月半の鑑定留置期間決定に対し、準抗告を申し立てた。
取消事由として立てたのは以下の5点である。
① 精神鑑定が不要なのに鑑定留置決定を行った違法
② 精神鑑定が不可能なのに鑑定留置決定を行った違法
③ 精神鑑定が不可能な可能性を審理せず鑑定留置決定を行った違法
④ 本格的な鑑定の必要性を吟味すべき義務を怠った違法性、不相当性
⑤ 適法な鑑定留置理由の開示がない違法
うち⑤については、少し研究したところがあるが、そのことはまた別機会に譲りたい。
また、うち④が、「その2」で紹介した岐阜地決を意識したものであることはおわかり頂けるだろう。
さて、裁判所は、①②③についてはさらっと流した上で、「しかしながら、本件は、被疑者の精神疾患の影響が直ちにうかがわれる事案ではなく、しかも弁護人が被疑者において鑑定人に対して一切供述しない方針を明らかにしているのであるから、より短期間で実施可能な鑑定を行うなどして本格的な精神鑑定を行うことの必要性を吟味すべきであったといえる。そのような吟味を経ることなく、直ちに本格的な精神鑑定を行うことを前提として、約3ヶ月半の期間にわたる身柄拘束期間を認めることは、被疑者に対して過度の負担を強いるものであって、相当ではない」とした(名古屋地決平成29年12月19日、吉井隆平裁判長、諸徳寺聡子裁判官、川村久美子裁判官)。
①②③をさらっと流されたことは不満があるし、結局「あと2日で鑑定留置おしまい」と述べている裁判所の真意は、おそらく、鑑定など不必要(もしくは不可能)と思っているところにあろう。これに対し、純客観的に21日が相当なのだから、決定までの19日を有効活用しなかったのは捜査機関の自己責任である、と判断したに過ぎない可能性もあるが、個人的には前者だと思うところである。
公刊されている決定を踏襲した、無難な内容であり、加えて、「弁護人が被疑者において鑑定人に対して一切供述しない方針を明らかにしているのであるから」として、それも一つの在り方と肯定しているところは、一歩進んだとも評価できよう。
もう一点、指摘するなら、堺支部の決定は器物損壊事件の中でも軽微な部類と判例時報の解説で指摘されているし、岐阜地決も罪名こそ強盗致傷事件であるが、示談状況などから相当有利な処分内容が予想されることが認定されている。これに対し本件は、少なくとも決定文からは、そういった処分予測についての言及はなく、仮に処分予測と無関係に期間制限を行ったのであれば、よほど、鑑定の必要性(あるいは可能性)が乏しい事案と評価されたのだろうと分析できるところである。
(その5・完に続く)
(弁護士 金岡)