弁護士業務の中では、思想的その他の相対立状況から、同時に手がけることの困難な分野が有り得る。例えば「医療側と患者側」がそうであり、「使用者側と労働者側」もこれに属する。会の法律相談でも、使用者側と労働者側の相談は分けて受けている程であり、どちらもやるというのは異例な方だろう(私は、医療側、使用者側は、基本的に断る)。なにしろ、180度、発想の方向が異なると非常にやりづらく、結局、依頼者に迷惑をかけることにしかならない。

刑事弁護の場合、犯罪被害者側の弁護はどうか、となると、少なくとも民事救済に関してやりづらさを感じることはない(寧ろ刑事弁護を知らない弁護士に対しては、犯罪被害者救済に関し、その手腕に疑問も生じるところだと考える。刑事弁護に詳しいと言うことは、犯罪被害救済にも深い知識が期待できるはずである。)。犯罪被害者側で刑事手続に関わるとなると、少々、難しいところが増え出すが、刑事告訴や法廷傍聴同行なら、まあ可能だ。刑事弁護をやるからといって、犯罪加害があって良いと言っているわけではない。
しかし被害者参加代理となると、発想の方向が異なりすぎるので、お断りせざるを得ないだろう。種々、研究して、「刑務所は役立たないから実刑回避」と主張している弁護士が、隣の法廷では「長期服役相当」と主張するのは、どうしたって二枚舌というものだ。合理的疑いを厳密に評価する生業なのに、検察並みに有罪を強弁するのも考えものである。つまるところ、向かないし、切れ味も鈍る。

とまあ、こういうことを書こうと思ったのは、さきほど消費者加害の絡む刑事弁護をお断りしたからだ。
消費者加害も、認めて賠償する、という民事的対応で済むなら良い(寧ろ消費者被害救済の理念に合致する)が、もし刑事事件に発展し、被害者側の問題点を鋭く指摘しなければならなくなった場合(少なくとも依頼者が求める場合、戦略的に有効と捉えざるを得ない場合は不可避に想定されよう)、消費者被害救済に思い入れがあると、それが非常に困難になる(逆にいえば、情状弁護が一切不要な否認事件であれば、そういう事件でも弁護するのに支障はない)。
そして私は、仮にも消費者被害問題に取り組む一弁護士として、そういった弁護活動はやりづらい。そうであれば、身を引く方が賢明であり、そういう思い入れのない弁護士に御願いした方が良いとなる。
どこかで割り切らなければならない問題であり、そのためにも代替要員を御願いできる弁護士仲間を確保しておかなければならない。

(弁護士 金岡)