【はじめに】
本稿からは、本件の審査経過について述べていきたい。
最初に断っておくと、刑事弁護委員が集まっての議事は、非公開である。非公開の趣旨が対象弁護士の名誉保護であるなら、私が寧ろ全てを公にしたがっている以上、全てを暴露することに問題はないだろうが、もう一つ、自由闊達な議論のため非公開にしているとすれば、私の意向に関わらず、刑事弁護委員会には守秘義務が課せられよう。
後述の通り、第1回会議で処置相当の報告書が出される異例の事態に、複数の委員から私の下に通報が寄せられた。そこから把握できることは、重要な部分で事実認定能力が機能していないことや、そもそも調査部会員が処置制度というものを理解していないこと、舟橋直昭委員長の専横が事態を更に悪化させたことなどである。
私自身は終始手続から閉め出されており、従って守秘義務を負う立場ですらないが、上記趣旨に鑑み、しかし他方で本件を世に問う公益的意義も考え合わせ、議事の具体的詳細に亘る部分への言及は控え、しかし世に問うべき事実関係は指摘するという方法で、以下の記述を進めていきたい。
なお、現在まで、刑事弁護委員会内では、本件の審査の有り様を巡り反省会が行われ、裁判所への勧告意見部分で刑事弁護委員会の総意を覆した池田桂子会長への抗議や、規程の改訂まで含めた議論が進められている(既に3回を重ねたとのこと)。そこで現れた議論については、もはや非公開を云々する必要もないであろうことも踏まえて進めたい。
【調査部会の報告と問題点】
何度か述べているが、調査部会は、「期日変更却下への異議や忌避申立などの手段を尽くすべきだったという助言を行うべき」という処置相当意見の報告書案を提出した(磯貝隆博弁護士、岩井羊一弁護士、神谷明文弁護士、黒岩千晶弁護士、鈴木典行弁護士、永井敦史弁護士(五十音順))。
普通に考えれば、調査部会以外の委員は、事件の主張や証拠に触れることは出来ないから、調査部会の報告を受けては、よほどのことがない限り追認していくことになるだろう。せいぜい2時間内外の会議で、調査部会の報告が「よほどおかしい」と判断されるとしたら、それはまさに「よほどおかしい」と言うことになる。
今回、第1回会議では、出席者の8割以上が反対して続行となった。という。
出席者の8割以上が反対したなら、そこで調査部会報告が否決されて終了でも良さそうなものだが(可決されたならそうなっただろう)、そうならず続行になったのは、もとより議長(舟橋直昭委員長)の采配によるものなのだろう。中立公正な議長がいなかったことのツケは大きく、刑事弁護委員会は後に、その代償を払うことになる。
さておき、調査部会が、盛岡地裁が反対尋問をやらせると述べた事実を「反対尋問まで進む意向を示した」程度にしか認定できない、と報告した事実をまずもって指摘したい。当たり前だが、反対尋問まで進むと宣言することと、そうしたいという「意向」を表明したこととは、全く違う。意向を示された程度でいきなり辞任するなど、金岡は実に愚劣だという印象になってしまう(後に聞くと、だからこそ調査部会案に引っかかりを覚えた向きも多かったようだ。刑事弁護士として一定の評価を勝ち得てきた功徳とでも言おうか。)。
どうしてこのようにねじくれた事実認定しか出来なかったのか、経験に基づく事実を私が述べ、反対証拠もない(盛岡地裁は上記発言事実について弁護士会の調査に対し回答を拒否したということである)状況では、理解しがたい。先走るが、第2回会議では、この点についてかなり批判が集中し、調査部会の事実誤認は是正を余儀なくされたと言うことである(その背景には、私側で事実認定のための資料を委員にばらまき、何名かの委員には精読して貰い、調査部会に対抗できるだけの理論武装を御願いできたことがあることも率直に述べておこう。但しこれは「抱き込む」類いではなく、あくまで誠実に刑事弁護的な対話を続けた成果と捉えている。)。
もう1点、これは後に調査部会員の1名が弁明したことだが、「助言」を不利益措置だと理解しておらず、「こういう意見もあるよと言う意見交換の趣旨」程度に捉えて報告案を作成したという、驚きの事態があった。調査部会が制度を正しく理解していない。空恐ろしくなる。
勿論、調査部会は、「ではどうやって反対尋問権を全うすれば良かったのか」については全く答えを与えていない。
それどころか、後に舟橋直昭委員長が説明したところによれば、調査対象に、在席命令違反が認定できるかというそもそも論(既に紹介した過料決定の論理を踏まえれば、辞任が即時有効と言えるか否か)は含まれず、ひとえに弁護士倫理上の問題のみが調査対象である、というのである。辞任が即時有効であれば、在席命令違反の前提がなくなり、処置請求自体が不相当になる、という理屈が、ここでは通用しない。そんなことはどうでもよく、倫理を審理するのだという誤導が始めから道を敷いてしまっていたことが、大問題であった(大阪弁護士会が、在廷出頭命令を発したことの当否まで踏み込んで検討し、刑事弁護の立場を明らかにしようとしたことと対比すれば、その落差が分かろうものである)。
このことは、他山の石として、広く論じられるべき事と思う。
調査部会の問題点を挙げ出すときりがないので、主立ったものだけを挙げてみた。
なにを調査対象とするのか?調査部会は制度を正しく理解しているのか?そこからして、道を踏み外している。本来は関わるはずのない舟橋直昭委員長が影響力を行使している(このことは、後述する取引と圧力を考えれば明らかと言える)。あげく、まともな事実認定に至らず、2時間内外の議論を経て、大半の委員から不審の目を向けられる。
初めてのこととは言え、ここまでの機能不全には、実に驚かされた。
(弁護士 金岡)