本年3月9日付け本欄にて、裁判員選任手続について取り上げたことについて地裁から削除要請が入ったこと、これに対し、「33条3項該当性について「あてはめ」を明らかにするよう、要望書を提出した。もし、差別的理由により裁判員候補者から外されていく現実があるとすれば、果たしてそれを隠ぺいすることが法の求める心情配慮なのか、違和感がある」と述べた。
この手の要望書は、おおかた無視されるかと思いきや、所長名義の文書(但し記名のみで押印もない)による回答を頂いた。
曰く「本件記事では、裁判所名、選任手続日、裁判員裁判の特定はなされていないが、記事をご覧になった裁判員候補者において、自分のことであると判読できる可能性が高く、自分が不選任となった理由を知り、さらには不特定多数の同記事読者に知られ得る状態となったことを知れば、当該裁判員候補者の心情が害されるおそれがある。」と。
残念ながら、前記問題意識に対してはゼロ回答であり、肩すかしの感は否めない。「差別したことを知られたら、差別された人が不快に思うかもしれないから、みんなで差別したことは秘密にしておこうね」と言うのが法の思想なのか、そこを問うているのだが。しかし、名義文書で回答をされたことは立派である。
以上を踏まえ、次の通り、記事を改訂して再掲しておこう。
「かつて、審理に耐えられないとは思われない~が審理計画は変更を迫られるかもしれない~裁判員候補者が、障害(精神的なもの、人格的なもの、肢体不自由、そのあたりは特定しない)のため、イの一番に理由無き不選任の標的となったのではないかと思われる事案に遭遇した。
差別ではないかとブログで取り上げたところ、地裁所長から、差別された人が差別されたと知ったら不愉快に思う可能性が高いからと、削除要請を受けた。
合理的配慮義務が法定された時代の要請に逆行する発想であり、頂けない。理由無き不選任が法定されているとは言え、それが障害者差別的な動機に基づくかもしれないと思われる場合、法の趣旨に反する可能性を看過すべきではないだろう。削除要請が依拠する、守ろうとする利益にも配慮は必要と思うが、他方で組織ぐるみの差別隠蔽工作に加担させられるのも御免である。関心のある層に知られ、どうあるべきか、意識的に議論しておかねばならない問題だと思うことを、ここに表明したい。」
(弁護士 金岡)