本欄4月4日付けで、勾留決定に対する準抗告が“事後審純化路線”で審理された結果、予想外に棄却されたことを取り上げた。
憤懣やるかたなく、翌5日付けで勾留取消を申立て、本日6日午前、無事に認容された(小川貴紀裁判官)(勾留取消制度は、必要的求意見のため、どうしても手続が停滞しやすく、本件も判断が1日遅れた。その分、釈放も遅れる。これが嫌忌される理由の一つである。)。
4日夜から6日午前まで、どれほどの事情の積み重ねもない。
従って、4日の裁判体が4日の事情で判断してくれてさえいれば、4日に釈放されたであろう可能性が高い事案であった。これが2日も遅れたことは、(事後審純化の裁判体に遭遇することを予期して勾留取消を選択しなかった私が悪いのでなければ、)4日の裁判体に全面的に非があるといえる。
前稿でも書いたことだが、法解釈的には4日の裁判体のような判断はありうるものの、現実にはそのように運用されていないのだから、いきなり予想を裏切って極端に偏向した裁判を行うというのは、どういう了見なのだろうか。現に2日も釈放が遅れたことについて、申し訳なさを感じたりしないのだろうか?
と、文句ばかり言っていてもしょうがないので、担当裁判官らに改善を求める事務連絡を送付することにした(以下に公開する)。嫌みに映るかも知れないし、心外かも知れないが、健全な相互批判はあって然るべきであろう。
(弁護士 金岡)
(貼り付け)
名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判官 村瀬賢裕 殿
裁判官 西山志帆 殿
裁判官 横井千穂 殿
(前略)
しかしながら、一般に、勾留決定に対する準抗告審は、事態が時々刻々と変動する流動性のある捜査段階にあって、しかも原裁判から間もなく申し立てられるのが通例であるため、原裁判後から間もなくの事情も踏まえて決定時の全事情を基礎に判断されていると承知しておりますし、例えば東京高決平成23年10月21日は、訴訟係属後相当期間が経過した抗告審にあっても、抗告審裁判所は原則原裁判後の事情を考慮すべきでないとしつつ、事情変更により既に原裁判を維持するのが相当でなくなった時はこれを考慮できるとして、結論として決定時における判断の代置を先取りすべきことを指摘しております。
このようにみれば、貴職らの前記判断の依拠した判断枠組みは、判例実務に照らし、原裁判後の事情を一切斟酌しないかのような、特異にして、捜査の流動性や、現時点における原裁判の当否を再度検討するという結論の妥当性を度外視した、不相当なものであったと考えざるを得ません。
事実、事件被疑者は、翌5日に当職の申し立てた勾留取消請求が6日付けで認容され、既に釈放されております。貴職らが判断をなした4日午後5時ころから6日午前にかけて、どれほどの事情変更があったわけでもなく(現に、当職による勾留取消請求の疎明資料は、貴職らに提出した疎明資料と全て同じで、追加はありません)、もし貴職らが原裁判後の事情も適切に考慮して判断をなしていれば、事件被疑者が無為に1日半近くも余計に拘束されるようなことは避けられたのではないかという疑念は解消しません。
裁判官には、高次の独立が保障されていますが、それは決して、恣意的な法解釈を許すものではなく、寧ろ、高次の独立が保障されているが故に、虚心に審理に臨み、適切妥当な法解釈を追求する義務を負わせるものと考えます。勾留裁判という強度の人権制限を行う権限を託された裁判官は、いつ何時であれ、勾留要件が失われたのではないかという姿勢で審理に臨む必要があるのであり、「事後審である以上は原裁判後の事情は斟酌しない」という姿勢は、そのような要請とは真逆です。
我々弁護人は、捜査段階においては特に機敏に行動し、疎明資料を集め、あるいは示談や復職環境整備といった事情の作出に努め、事件被疑者の勾留が不必要不相当と判断されるよう、努力しております(職務基本規程第四十七条「弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努める。」)。そのような努力に対しても正当な評価をされるよう、要望します。
参考までに勾留取消決定を添付しますので、以上を、今後の執務の参考にして頂きたく、御連絡したものです。