大阪の亀石弁護士がツイッターで取り上げているが、「そちらでも是非」とのことだったので、本欄でも取り上げたい。
愛知県警の痴漢撲滅広告「あの人、逮捕されたらしいよ」がウェブ上で話題である。
知り合いが逮捕されたらしい女性2名のライントークで、被疑者がさんざん揶揄され、危険人物扱いされる趣向である(上記広告名でググると、現時点ではウェブ上で見られるが、見られる画像は不鮮明なものも多いので、書き起こされたトーク内容を下に転記しておこう)。逮捕されたらこういう目に遭うから、痴漢などしないようにと言う啓発だろうとは思うが・・いやはや。相変わらず絶望的なまでの見識の低さである(亀石弁護士繋がりで言うなら、裁判所にばれないように厳重な守秘体制でこそこそGPS捜査をやっていた・・ということを思い出せば良かろう。ばれなければ良い、の精神である。)。
既に随所で指摘されているように、無罪推定があるのだから、「逮捕された」=そんな人だったのか=性犯罪者だ=クビになるよね=(あなたも)変なことされなかった?という一連の流れは、全て、無罪推定に反している。
無罪推定違反だけではなく、「(あなたも)変なことされなかった?」に至っては、犯罪者は常習犯で、あちこちでやっているに違いないという、「いかにも警察らしい偏見」にまみれている(これも偏見だろうか?)。
少し法律的なところで解説を加えると、最二小平成24年9月7日決定は、前科証拠から同種事犯を敢行したという犯人性立証を行うことを原則として禁止し、顕著な特徴、相当程度の類似性がある場合でなければ許されないとしている。(ましてや逮捕段階という話はさておいても、)「(あなたも)変なことされなかった?」という発言は、「痴漢は、どうせ他にもやっているだろう」という、判例の禁じる決めつけである。
このような警察組織の本音は、実に冤罪(誤認逮捕を含む)と結びつきが強いと言える。
1.どうせこいつの仕業だろうという見込み捜査が冤罪等の原因の一翼を担っていることは、歴史が証明している。警察は本来反省すべきだが、実際には、それは正しい経験則だと考えていると窺える。
従って、冤罪等は減らない。
誤認逮捕だけでも、社会的には著しい打撃である(この広告が皮肉にも示しているとおり、誤認逮捕でも、友人関係を失い、時間を失い、名誉を失い、仕事を失うのだ)。警察がこういう感覚でいる限り、誤認逮捕は減らない。
2.警察は、逮捕行為という自らの判断(痴漢事案だから、話を一応、現行犯逮捕に限定しておこう)が絶対的に正しいと信じ込んでいる。本来、無罪推定や強制処分法定主義等の下に、その強制捜査権限は厳重に監視されなければならないのだが、この広告を見れば分かるように、逮捕で決まり=社会から排除されて当然だと考えている警察は、つまるところ、自分たちは監視を受ける必要などないと思っていると窺える。
強い権力こそ、監視されなければならない。一つ間違うだけで、人の人生を台無しにする強力さがあるからである(私が国賠に取り組むのも、それしか監視方法がないというのが、一つの源泉である)。監視されなくても自分が正しいと思い込んでいる警察権力は非常に危険であり、冤罪等の温床となることは言うまでもない。
亀石弁護士は、不適切な広告と言うことで所定の苦情を提出されるとのことである。果断な行動と言える。賛辞を送りたい。愛知県弁護士会は抗議するだろうか。速やかに抗議しなければ沽券に関わるだろう。
(弁護士 金岡)
(参考)
A「聞いた? あの人、痴漢で捕まったらしいよ。」
B「えwwwwwwwww」
A「本当本当!さっきネットニュースで見た!!そんな人に見えなかったわ」
B「気持ち悪 軽蔑だわ 性犯罪者じゃん」
A「仕事もクビになるよねー。家族も悲しむだろうなあ」
B「そりゃそうだわ 私は一生関わりたくない」
A「この先どうなっちゃうんだろう…」
B「そういえば……私先月あの人と電車で偶然会ったよ」
A「そうなんだ?! 変なことされなかった?」
B「あの時は何もなかったけど」
「なんかもう、あの人のこと思い出したくもない」
A「女性の私たちも被害に遭わないよう気をつけなきゃね」