この標題にピンと来て、本欄の話題を察する弁護士は、整理手続に専門的に取り組んでいると言えるかも知れない。

「供述書」でもなく「供述調書」でもない、「供述録取書等」という用語の定義は、現在は刑訴法290条の3においてされており、曰く、「供述書、供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であつて供述を記録したものをいう」。
例えば、「被告人の供述録取書等」と言えば、警察や検察の作成した「供述調書」は当然として、それ以外に、被告人の署名入りの日記、上申書の類、何らかの機会に録音された音声、取り調べにおける録音録画の全てが含まれることは争い無かろう。

さて、検察官に対する証拠開示請求において、「被告人の供述録取書等」を開示請求したとしよう。そうすると、取り調べの録音録画媒体も、開示請求されたことになる。
そして、その事件で、取り調べの録音録画がされていることは明らかであるが、それなのに録音録画媒体が開示されなかった、とすると、弁護人としては実に心外である。

このほど、(久方ぶりに)そういう事態に遭遇した。
検察官(名古屋地検、昆雄一検察官)に「なんで開示しないのか」と質問状を送ったところ、「録音録画媒体を開示するように求められていない」と応答された。定義規定を示して更に問い質すと、要するに、「録音録画媒体も開示して欲しいなら、その旨、注記するのが普通だと思っていた」というのである。
なるほど、整理手続黎明期(もう10年以上も前だ)、「供述録取書等」の定義が未だ浸透せず、開示漏れが相次いだために、開示漏れして欲しくない「供述調書」以外の標的を「(上申書、日記等を含む)」等と特に注記するような扱いを心がけていたことは確かだ。けれども、法律の定義規定に従って開示請求しても注意書きがなければ開示請求した扱いにならないというのでは本末転倒である。

「供述録取書等」の定義に習熟しない弁護人と、刑事訴訟法に習熟しない検察官が相まみえると、「供述録取書等」の開示請求に対し「供述調書」以外の該当対象資料が開示されず、お互い、それを当然と思ったままに裁判が進行することになりかねない。
気の毒なのは被告人である。
このことは、本欄で注意喚起する価値がある、と思わざるを得ない。

そして、裁判所は、整理手続が遅れる要因の一つが証拠開示の紛糾にあるところ、その原因には、このように馬鹿馬鹿しい未熟さから来る、証拠開示の停滞があるのだという現実を理解すべきだろう。
なにせ前記事態の下にあっては、「供述録取書等」の開示請求をして3か月経つのに、未だ、取り調べの録音録画媒体の開示がなされていないのである。それで事件の検討が進まないのを、こちらのせいにされても困るというものだ。

(弁護士 金岡)