件名のニュースが共同通信から配信されている。
【引用】「高裁の嶋原文雄裁判長は、検察側が安全な車間距離を具体的に明示せず、事故を回避できたかどうかの立証が不十分だったと指摘。『地裁は、安全な車間距離を独自に解釈して不意打ち的に認定しており、被告に十分な反論の機会を与えなかった』と判断した。」というものである。【引用終わり】
当欄で因縁めいた取り上げ方をした盛岡地裁での一連の出来事の、本体である刑事裁判の第1審有罪判決に対する控訴審判決がこれである。係属中の案件なので評価的な言及は避けるが、なかなか手厳しい評価になっているので、何箇所か紹介しておきたい。因縁の盛岡地裁判決が破棄されたからと言う要素もないではないが、おそらく、過失論や訴訟手続論について、刑事裁判に関心がある層の好奇心を刺激するのではないか、理由不備どころか訴因逸脱認定まで指摘されるのは割と珍しいのではないか、と思う次第。
【1】理由不備の論旨に対する判断
原判決が挙示した証拠によっても,原判決のいう安全な車間距離保持義務を遵守することにより本件事故が回避可能であったということは認定できない。したがって,原判決は,証拠に基づかないで過失ないし因果関係にかかる事実を認定したというほかなく,この点において,刑訴法378条4号にいう理由不備の違法があるというべきである。
【2】刑法解釈の誤りに対する判断
原裁判所は、前記のとおり「被告人がどの程度車間距離を保持すれば、本件事故を回避できたという仮定的判断をする必要はない」と説示して過失の要件についての理解を誤り,被告人が保持すべきであった車間距離と現実的に採り得た結果回避行動について具体的に主張を明示するよう検察官に促すこともなく審理を終結し,その結果,被告人の防御が尽くされずに原判決に至ったものといわざるを得ない。
【3】釈明義務違反の職権判断
さらにいえば,原判決は車間距離保持義務違反のみを認定したものの,本件公訴事実は前方等注視義務違反と車間距離保持義務違反との競合による過失であったから,当初の検察官の立証構造のままでは,前方等注視義務違反がない場合でも本件結果と因果関係のある過失があることが十分に立証され,かつ, 被告人において十分に防御が尽くされていたのかという点にも疑問が残る。そうすると,原審としては,・・一方の過失がない場合の結果回避可能性や因果関係の有無についての立証構造に変化がないのかという点について, 十分に釈明を求め,被告人の防御も十分に果たさせるべきであったのに,この点について釈明することなく,自ら独自に車間距離保持義務の内容を解釈, 評価して認定したものと指摘せざるを得ない。
【4】訴因逸脱認定に対する判断
なお, 訴因逸脱認定の所論について付言するに,・・原判決が, 起訴された安全な車間距離を保持すべき義務の内容に含まれない別途の注意義務を課した上でその解念を認定したもの, もしくは本件ではおよそ想定し得ない状況下で、相当に長い距離の「安全な車間距離」を保持すべき義務を認定したものと解し得るから,これらの説示が訴因逸脱認定の疑いを生じさせるものであって不当であることは,所論が指摘するとおりである。
(弁護士 金岡)