先日の出来事。税金の滞納があり滞納処分で給与口座をまるごと差し押さえられたという相談を受けた。

一般論として、生計の基礎となる給与については(民事執行法であれ税法であれ)差押え禁止部分がある。従って、給与債権を標的にすると差押え禁止部分以外しか回収できない。ところが、給与が実際に支払われて、例えば給与口座に入金され、預金債権に化けると、預金債権の方には差押え禁止部分がないから、給与と全く等しい預金であっても全部差し押さえられるという寸法である。
素人目にも奇異な現象であり、法の潜脱だという感想を持つだろう。

相談の事案も、給与以外に一切の入金のない口座であり、「給与+数円」しかない状態で、入金日同日(どころか1~2時間以内の模様)に滞納処分が行われていた。傍目に、給与の入金日を調べ上げて、どんぴしゃで滞納処分をかけてきたと思われる展開である。
つまり、明らかに法の潜脱である。

この問題について、前橋地判平成30年1月31日は、「給料等が受給者の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、法七六条一項、二項が給料等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべきであって、滞納処分庁が、実質的に法七六条一項、二項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合があるというべきである。」とし、結論としても当該処分を違法と判断した。非常に参考になる裁判例である。

私もこの例に倣い、担当税務署に違法性を指摘したところ、滞納処分の解除含みで話し合いたいということになり(その過程で税理士業を行える登録をしているのかという問いただしを受けたが、無論、処分の違法性を争うのは税理事務ではなく法律事務であり、おそらくは弁護士を毛嫌いするところから来る無理解だと思われた)、無事、分納を条件に解除を得た。

こういう活動は、弁護士業の醍醐味と言えるだろう。
言ってしまえば国家権力の濫用であり、脱法である。往々にして、権力を行使する側には、法で縛られているという意識が乏しくなる。その観点で法治を回復させることは、弁護士の基本的指命だと思う。
本件は、その気になれば国賠で勝てるような仕打ちであるが、この種の問題が弁護士の所に持ち込まれることは多くないのではないか。
今回のことで、税務署が少しでも懲りてくれれば良いのだが。

(弁護士 金岡)