本欄本年6月16日付け「警察の「ウソ」」や、10月12日付け「犯罪捜査規範を読まない警察官」で取り上げていることだが、仕事柄の折衝の限りで言うと、警察官はとにかくウソをつく。間違ったことを押し通そうとし、抵抗や反論に遭うと、自省することを頑なに拒み、ウソを重ねてでも押し通そうとする。
勿論、世の中の大多数は真面目な警察官だろう。しかし、特に被疑者の防御権を巡り衝突すると、ウソを重ねてでも押し通そうとするのが事実であり、その挙げ句が、「犯罪捜査規範のその箇所は読んでない」といった、子どもでも言わないウソに繋がる(素直に「犯罪捜査規範に違反していました、ごめんなさい」と言えば良いものを)。
さて、今回は春日井署で、またも、ウソを重ねてでも押し通そうとする事象に遭遇したので、紹介しておきたい。
ことは、在宅被疑者の取調べにおいて、被疑者の携帯電話をどうするかという問題である。取調べ立会に次ぐ次善の策としては、被疑者との間で双方向で携帯電話での連絡を絶やさないようするという工夫が考えられ、これが、憲法が被疑者に「弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障している」(最大判平成11年3月24日)とした判例法理を実効あらしめるための最低線であろうというのが私の考えである。被疑者からの定時報告がなければ弁護人から連絡を入れることも必要になる。弁護人からの通信も可能にしておくことが肝要である。
この次善の策については、概ね、尊重されており(少なくとも「立会い」よりは抵抗度合いが少ない)、今年に入って思い出せる範囲でも、北署、綠署、ついでに名古屋地検でも実施したのであるが、春日井署で本日、「愛知県警全体として禁止だ」というトンデモ発言を受けた。
根拠があるかと問うと、あるというので「愛知県警全体として禁止」の根拠を示せと要求すると、20分待たされた挙げ句、出てきたのが、「愛知県警察取調室管理要綱」である。
たまたま、この要綱は知っていたが、この要綱が携帯電話の持ち込みを禁止している名宛て人は取調官であり、被疑者ではない(愛知県下で、この内容を知っている弁護士は数名であろうが、知らなければ、ころっと騙されたかも知れない)。
寧ろ、この要綱は、在宅被疑者が取調室に携帯電話を持ち込む場合は、盗撮などされないように、視認できる状態にするよう「協力を求め」なさいとしており、つまり、「視認できる状態にする」ことすら、任意の協力に応じるか応じないかの問題なのである。
なお、念のために言うと、仮に「要綱」が今後、改悪されても、議論状況は変化しない。憲法上の人権は、内規ごときに制約されるものではないからだ。
以上、まとめると、春日井署の今回の対応は、まず「愛知県警全体で禁止」という点で大ウソである。そして、根拠規定があると強弁した点で、更にウソである。
ウソにウソを重ねてまで、その、憲法を無視した運用を押し通そうとする。挙げ句、出してきたのが、前記「要綱」とあっては、怒りや滑稽さを通り越して、哀れみすら感じてしまう。
ちなみに、対応した警察官は、なんと、取調中の在宅被疑者に弁護人から連絡を入れることは「取調べ妨害だ」とまで宣った。空恐ろしい人権感覚であり、なかなか更生も難しかろうと慨嘆したところである。
(弁護士 金岡)