感覚的にはこの1年以内に属することだが、(他庁のことは分からないが)名古屋地裁の準抗告裁判書が激しく劣化していると感じる。端的に言うと、
・とにかく具体性を捨象する。
・A4一枚を目指している感がある。
ということになる。
例えば最近の勾留期間延長請求に対する準抗告棄却決定である。人身の自由の大例外にして、しかも刑訴法上も例外的事象と位置付けられる勾留期間延長について、裁判所はどれほど言葉を尽くして人権の非侵害者に対する説明責任を果たした(不利益処分における理由告知が手続法の根幹であることに争いはなかろう)のか。以下、全文を引用する。
「一件記録により認められる本件事案の内容及び性質、被疑者の供述状況及び供述内容等によれば、本件事案の真相を解明し、被疑者に対して適正な処分を行うためには、被疑者方から押収された本件に関する書類についての鑑定、被疑者と交友関係を有する者の取調べ、その結果を踏まえた裏付け捜査などが必要であり、これらの捜査のためにはなお相当の日数を要すると認められる。そうすると、勾留期間を10日間延長することにつきやむを得ない事由があると認めた原裁判は相当である。その他の弁護人の指摘を踏まえて検討しても、この判断は左右されない。」(吉井隆平裁判長ほか)
僅か255文字。裁判体の署名部分を除けばA4一枚ぴったりである。裁判体の署名部分を含めてA4一枚ぴったりのものも複数、報告されてるから、これでもまだ最短の部類ではないところは病的である。
どうしたって認容しがたい準抗告だから具体的理由を書くまでもないと言うことなのかと思いきや、そうでもなかったことは、認容決定もまた劣化しているようであることから否定される。
K弁護士の最近の認容例曰く、「もっとも、被疑者は事実を認める旨の供述をしており、勾留後の捜査の経過等も踏まえて検討すると、上記罪証隠滅のおそれの程度は高いものとはいえない。また、被疑者に前科がないことに加えて、原裁判後の弁護活動の結果等も考慮すると、現時点においては、勾留の必要性までは認められない。」(田邊美保子裁判長ほか)
「勾留後の捜査の経過」とか「弁護活動の結果」を具体的に書けない事情でもあるのだろうか・・まさか決定例を分析されたくないという意図が働いているわけでもあるまいに。ここまで抽象的に、すかすかな裁判例を出されると、後世に残されるものが何一つなく、過剰な身体拘束の抑止に向けての教訓一つ得られない虚しさである。
(弁護士 金岡)