近時、本欄で、身体拘束に係る裁判の決定理由の空疎化が進んでいることを指摘している。
手続法的には、不利益処分に対し理由を示すことは、手続の透明性を高め、不服申立の手掛かりを与える上で本質的な重要性を持つため、特に消極方向の決定理由の空疎化には看過しがたいものを感じる。
とある弁護士から提供頂いた棄却決定理由(名古屋地裁刑事5部、板津正道裁判長)は次の通りである。
(1)本件被疑事実の要旨は、被疑者が、○○を所持したというものである。
(2)一件記録によれば、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められる。
本件事案の内容、性質、証拠の収集状況等に照らせば、被疑者を釈放した場合、自己又は第三者を介して関係者に働きかけるなどして、犯行の動機・経緯等の重要な情状事実について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる。また、これらの事情に加え、被疑者の身上等に照らすと、逃亡すると疑うに足りる相当な理由が認められ、勾留の必要性も認められる。
(3)以上によれば、原裁判は正当であり、本件準抗告は理由がない。
この事件は、少年事件だという。
少年法により、勾留は「やむを得ない場合」でなければ認められないが、決定には、「やむをえない場合」を認定したことすら書かれていない。
このように形式面もひどいが、中身は輪をかけてひどい。何も具体性がないから、透明性の機能も手掛かりの機能も発揮されない。不利益処分における手続保障の欠片もない。
後日談。この決定は勾留8日目夕方に出されたとのこと。
その2日後の午後、夕方にも係らないうちに、少年は観護措置を取られることなく釈放された。それまでの間、取調べ一つ、なかったという。
勾留と観護措置は、無論、違うものだが、2日前に地裁で「逃亡するから捕まえておくのもやむを得ない」といわれた同一人物が、2日後、釈放される。
刑事5部の裁判官3名に、是非、棄却理由の御高説を承りたいものだ。突き詰めて理由を書かずに、口を拭っておしまいというなら、裁判官という仕事は随分と楽なのだろう。
弁護士 金岡