岐阜の神谷慎一弁護士(「リーダーズ」紹介弁護士のお一人)の担当案件であるが、なんとも画期的な「刑の執行猶予言渡取消請求棄却決定」が出たので、ここでも情報提供しておきたい(追って季刊刑事弁護にも掲載される由)。
まだ動いている部分があるので、差し支えない範囲で書くと、性犯罪事件の保護観察付き執行猶予5年について、4年11月弱が経過した時点で、とある「再犯行為」に及んだというものである。再犯行為の性質を「例えば」でいうと、無銭飲食詐欺で保護観察付き執行猶予を受けた後に、「ウナギの匂いをおかずにしようとウナギ屋の敷地に不法侵入してしまった」ような関係性の「再犯行為」である。
情報によると、検察官は、再犯行為について示談成立見込みであるという弁護人の説明に耳を貸さず、満期も待たず起訴した上で、刑の執行猶予言渡取消請求を行ったという。あと一月ちょっとしかないという状況で、なにがなんでも前刑取消をせしめようと暴走したと言え、それが公益の代表者として健全な訴追裁量であったかは疑問に映る。
さておき、岐阜地裁は同請求を認容し、名古屋高裁に場所を移して即時抗告審が係属した(名古屋高裁刑事第2部、高橋徹裁判長)。
名古屋高裁刑事第2部といえば、本欄でも相当に問題視している例の裁判長がおり、故に「なんと」と書かざるを得ないのだけれども、なんと、一転して原決定が取り消され、請求棄却となったものである(本日確定)。
争点は2号の「その情状が重いとき」該当性である。
神谷弁護士から意見を求められたために(因みに、殆ど面識もないような弁護士から相談が舞い込むことも屡々であるが、そういう場合に積極的に応じると、自分の方でも調べたりなんなりして勉強になる上に、成果物の提供を受けたりできるので、是非そうすべきだと思う。但し、消費者加害的自称専門刑事弁護士事務所は、徐々にでも絶滅頂きたいので、仮に相談してくるくらいの弁えをお持ちでも、その手合いからの相談の場合は断るかも知れない。)判例検索をかけてみて、そもそも2号の「その情状が重いとき」を否定した例があるのか?という印象であった。昭和61年の大阪高裁の逆転取消決定の原審が請求棄却例であろうこと、また、更に古いところで罰金を重ねたくらいでは1号の取消はできない(2号は訴因ではないから検討しない)とした決定例もあるが・・今回の名古屋高裁決定は2号の「その情状が重いとき」該当性を否定した、希有な例であろう。
高裁決定は、次のように言う。
①再犯行為は、少なくとも重大悪質では無い。
②4年11月近く、再犯行為に及ばず。
③本件摘発に対し余罪も自主的に申告するなど更生の意欲がある。
④然るべき身元保証がある。
⑤保護司も弁護人に対し、取り消さなくても更生が期待できると述べている。
⑥結論として、改善更生の見込みがないというのは早計かつ過酷である。
2号の「その情状が重いとき」該当性をどのように判断するか(また、どのように審理すべきか)は、殆ど議論がないと思う(今回の原決定審の審理手続にも、科学性の欠如~敢えて擁護するなら2号事由について科学的審理を行うには圧倒的時間不足~がある)。高裁決定は、再犯行為そのものの性質と、改善更生の見込みがまったくないとまで言えるかを重視しているようだ。なるほど、「その情状が重いとき」は、執行猶予を取り消すか保護観察のまま続けるかの局面であるから、究極的には、執行猶予を取り消さなくても改善更生ができる、と言えないほどに「情状が重い」ことを言う、となり、改善更生の見込みがまったくないかどうかが審理対象であろう(再犯行為の性質は、要するに重大悪質方向なら改善更生見込みを否定する方向に働く間接事実のようなものだろう)。そう読めば「分かるな」という決定である。
4年11月近くも再犯に至らずにいられたこと、再犯行為の性質が明らかに小さくなっていたこと、という筋の良さはあっただろう。
また、前記⑤のように、本来は時間を掛けて審理すべきところ、保護司の評価すら弁護人の又聞きに委ねざるを得ない審理時間の逼迫を当事者の不利には判定できない、という要素もあったのだろうか(だとすれば、名古屋高裁刑事第2部にしては・・にしては、といわざるを得ないが・・実に行き届いた、均衡のとれた判断を示したことになる)。
ともあれ、画期的には違いない。
(弁護士 金岡)