朗報と言えるかも知れない。
本欄10月17日付けで、「高刑2部繋がりで、上告に伴う保釈却下に対する異議が認容されたもの」を紹介した。幸か不幸か交通事故に遭ったために逆転に漕ぎ着けたようなもので、一審実刑後も現に保釈されていた事実があって何も事情変更が無かったのに「被告人の保釈を許可するに足りる必要性があるとは言えない」とした原決定(高刑1部)自体は追認できるとしたもので、悪しき発想に立つものと批判した。

例の裁判長が依願退職し、高刑2部の構成が変化した。
他の顔ぶれが変わらなくても、大きな顔をする一票が無くなったことで風通しが良くなることを期待するのは人情として無理からぬものだろう。
その「新生」高刑2部が、薬物自己使用事案の一部執行猶予事案つまり実刑判決(控訴棄却まで進み上告中)を基本事件とする上告保釈について、保釈を不許可とした高刑1部の決定に対する異議を認容して保釈を許可した、との情報を得た。

わざわざ紹介するのは、これまでと決定文が違うかも、と思わなくもなかったからだ。
異議認容決定(名古屋高裁2019年11月19日、後藤隆裁判長)は次のようにいう。
① 原決定が保釈を許可しなかった理由は明らかでは無い。
② 第1審実刑判決後の再度の保釈後、保釈条件違反が無い。
③ 控訴審も基本的に全期日に出頭し、生活環境も安定。
④ 罪証隠滅のおそれがないことは勿論、逃亡のおそれも保釈保証金を以て担保できないほど高いものとは言えない。
⑤ 薬物離脱のための通院と、業務引継になお相当期間を要することから、保釈を許可するに足りる必要が無いということも出来ない。

「従来型」だと、①のところで既に、上告保釈を認めなかった原決定に裁量の逸脱は無いの一言で終わっていたところだろう。ここで、そもそも原決定の裁量を尊重すべき前提をなす、原決定理由自体が不明だと指摘したところが、面白い。
そして、②③④は、要するに、第1審実刑判決後の保釈時と状況は同じである、ということを指摘しているように読める。引き続き保釈を認めて良いんじゃないの?という価値判断まで読み込むと褒めすぎかもしれないが、第1審実刑判決後の保釈時と状況は同じである、という確認が主要間接事実となるのは、正しい在り方である。
最後の⑤は、一部執行猶予が争点となるような自己使用案件なら、継続通院は割と行われるようになってきているし(私も、自己使用事案は全件、通院を強く勧めている。通院する気が無いという依頼者には病識を持って貰うところから始める。)、なにかしら社会生活を続ける必要性というものは、大なり小なりあるものだから、「無いということも出来ない」かどうかなら、まだしも疎明しようがあるというものだ。

軸足が変わったかどうかは即断できない。
しかし、前と同じ軸足ではないようにも読める。
引き続き、注視したい。

(弁護士 金岡)