勾留請求段階で既に弁護人に就いている場合の関心事の一つは、勾留請求が出るか出ないか、である。出れば、担当裁判官に対する意見書の提出や疎明資料の取り纏め等の積極的な防御活動を、最大限、急ぐ必要があるからである。初回勾留期間満了時点でも同じことが言え、勾留延長請求が出るか出ないかが同様に関心事となる。勿論、出るものと思って準備を進めては居るとしても、他の業務と同時並行である以上は、現に出るかどうかは大きな違いである。

さて、とある事案で、事務局に頼み、1時間おきに裁判所に「勾留請求が出たか」「出たら意見書を出すので」と確認していた事案がある。12時の段階では出ていなかったが、13時の段階では提出から「約1時間」が経過し、既に勾留質問の予定時間も大まかには予定されてしまっている、という。そこに「意見書を出す」「勾留質問は提出後とされたい」と割り込みを要望したものだから、(私の主観においては)相当迷惑そうに「いつ出せるのか」「出来るだけ早く出して欲しい」と、このように応対された。
こちらは1時間毎に確認を入れているのだから、仮に12時05分に勾留請求が出たなら、裁判所から「出ました」「意見書はいつになりますか」と連絡してくれても良いだろう、それを13時まで知らせずにおいて「いつ出せるのか」もないものだと思い、後日、裁判所に、勾留事務の運用改善を申し入れた。

申し入れの主題は、「弁護人が予め要望した場合には、勾留請求が出たことを弁護人に連絡して欲しい」ということである。全件で告知しろ、というわけではない。残念ながら勾留請求に対し何もしない弁護人も居るだろうから、(捕まえる方に)お忙しい裁判所に無駄なことをさせるわけにもいかないだろうと一応、気遣いし、さしあたり弁護人において積極的な防御の予定があると明示している場合には、速やかにその機会を与えるべきだと言う、控えめな改善提案である。
前記のような55分の間に「意見書を待たず勾留質問をやってしまいました」では、防御権が損なわれることを思えば、このような配慮は当然と思えた。

しかし、名古屋地裁総務課長名義の口頭回答(書面を出したがらない無責任体質のお役所対策として録音済み)によれば、上記のような運用は、裁判所が責任を持って取り扱うべき事務ではなく、弁護人において積極的な防御を行うべき機会を速やかに付与すべきだという要請を踏まえても、そのような運用改善はしない、という結論になったとのことである(本年12月27日付け回答)。

裁判所はよくよく、釈放方向の意見や資料提出を受けたくないのだと、またしても思わされた。本欄で取り上げたことのある、時間外に弁護人からの連絡を受ける体制構築一つとっても、相当期間をかけた上で漸くファクスの受取窓口が用意されるという中途半端な改善に留まったわけだが、24時間体制の逮捕状発付事務との懸隔は大きい。
同様に今回、勾留請求なり勾留延長請求なりに対し、弁護人が積極的な防御を行いたいと述べているのに、「攻撃があった事実」(つまり勾留請求なり勾留延長請求なりがあった事実)を告知することすらしないとして、そのような姿勢が露わになった。
もし事務局が、他の用務に忙殺されて確認の電話を入れるのが遅れれば、本当に、その2~3時間の間に勾留決定まで進んでしまうかも知れない。それを思うと、今回の裁判所の運用改善の拒否は、許しがたいものである。

「裁判所が責任を持って取り扱うべき事務ではない」とは、良くも、ぬけぬけと言ったものだ。10日間、拘束するという、極めて攻撃性の高い「攻撃」に対し、速やかに的確な防御機会を与えることこそが、手続保障と人権保障を司る裁判所の本来的責務であり、勾留請求という攻撃が加えられた事実を、守り手である弁護人に告知する以上に責任を持って取り扱うべき事務がそうあるだろうか。運用改善を申し入れてから3か月超を費やし、どこをどうすれば、真逆の結論に至ったのだろうか。

思わず、「・・・誰も気が付かなかった。あの手口に学んだらどうかね。」という麻生氏の名言を思い出した。うるさい弁護人の監視を受けたくない、弁護人が覚知しない間に、気付かないうちに、勾留裁判を済ませたい、というのが本音なのだろう。
このように低水準の「な」から始まる裁判所と、「あの手口」を実践した「ナ」から始まる組織を比べた場合、失礼だと怒るのはどちらか。案外、あちらの方が一緒にしてくれるなと怒るかも知れない。

(弁護士 金岡)