高橋徹裁判長が退官した後であるが、本年12月25日付け朝日新聞朝刊に、控訴審の即日判決問題を取り上げた記事が掲載された。裏方で取材協力した御縁があるので本欄でも紹介しておきたい。
本欄本年7月6日付けで「第1回公判前に判決を書き上げる姿勢が到底、公正な裁判所の名に値しないことは自明であり、その趣旨の忌避を申し立てた」としたのは私の担当事件であるが、上記記事でも、元裁判官の弁護士から同趣旨の指摘が出ている。「法廷で何を言おうと、既に判決は出来ている」という姿勢がおかしいことは直感的にも自明だろう。

私は、即日判決問題の本質は、「謙虚に聞く姿勢」の欠如という手続保障違反にあると考えている。他の意見としては「被告人の納得感」という指摘もあり、それはそれで、時間を掛けて検討された結論に漸く納得し更生に向かう方も居るのかも知れないが、余り本質的な議論とは思われない。
時間を掛け、検討したふりをして貰いたい、公正らしく振る舞って貰いたいというのではない。
最後まで謙虚に聞き、その上で公正に判断して貰わなければならない。これに対し、予め判決を携え、第1回公判の法廷において如何なる遣り取りがあろうと意に介さない(人の心理として、既に得た自分の結論に反する意見は意識的無意識的に排斥する方向に働くこと~確証バイアス~が知られている)姿勢は、公正では無く、故に、公正な裁判所による判断を保障した手続保障に反する。このように考えるのである。

他職経験で一時期、名古屋で弁護士をされた川口洋平氏が、裁判官に戻るに際し、自由と正義に寄稿され、「聞くに徹する」との決意表明をされたことは(実は軽く衝撃を受けたので)未だに記憶に新しいが(自由と正義2008年12月号「弁護士としての日々」)、正に、そうである。
たかだか数十年、法律家をやっているだけで、全知になる筈もない(弁護士17年を超えた自分自身を振り返っても、やればやるほどに、知らないことが多いことを知る日々である)。まして裁判官は、訴訟当事者の巧拙により左右される事実関係の断片しか目にしないのだ。所詮はその程度の知見、立場と分を弁え、聞くに徹するのが、当然である。

なお、朝日新聞の取材結果によれば、高橋徹元裁判長が札幌高裁に赴任し急増した即日判決は、同裁判長が札幌高裁を去った後もなお40%越えを維持しているとのことである。「第1回公判でどういう遣り取りがあろうと結論は決まっているのだから第1回公判で直ちに判決を言い渡した方が迅速な裁判に資する」という妄執に囚われた後継者が現れてしまった、ということなのだろう。

(弁護士 金岡)