久々に「証拠の大部分を同意し、被告人質問を行い、乙号証撤回で、論告弁論まで」という案件を担当している(このようなありふれた処理は、しかし本来は宜しくないと思う。そのことは本題から逸れるので、またいつか書きたい。)。
弁護人及び検察官が必要相当な被告人質問をすれば、通常、乙号証は必要性を失うという今時の被告人質問先行型で進み、検察官は乙号証を全部撤回すると述べた。

ところが・・である。神田大助裁判長は、被告人質問で身上経歴が薄いとでも感じたのだろうか、「身上経歴もか・・」と独りごちるや、「身上調書を自由な証明で採用します」と、いきなり職権採用を宣言した。

そもそも論として、もし身上経歴が薄いと思ったなら、裁判所の補充質問で質問を行えば良いはずだ(因みに裁判官からの補充質問はゼロ)。法廷に本人がいるのに、不同意になった伝聞証拠でこれを補おうという発想自体が、根本的におかしい。
しかも、自由な証明による採用について弁護人に意見を述べる機会を与えていないこと、また、調書の内容を確認していないから本当に全部が自由な証明の対象止まりなのか裁判所には分かりようもないという問題があり、どうしようもなく杜撰な手続である。
当然、弁護人から異議を申し立て、証拠意見を述べる機会を与えていないこと、また、重要な情状関係(事件後の被害回復関係が録取されていた)については厳格な証明であるべきことから全体を自由な証明で採用するのは乱暴すぎることを指摘した。
更に、相弁護人は、素早く調書内容を確認し、公訴事実に言及している部分があることを指摘した。
その結果、(往生際の悪い抵抗はあったが)証拠決定は取り消された。

一事が万事、というが、このような訴訟指揮は(そもそも元々、信用があるかないかと言えば結論はお察しなのだが)信用を失うだけである。
弁護人の意見を聞かず証拠採用できるという手続違反。
内容を見もしないのに全てを自由な証明枠と決めつける手続法に不忠実な姿勢。
裁判員裁判では口頭主義を謳いながら、非対象事件では本人を目の前にしても質問より調書を優先する二枚舌。ついでに、被告人の戸籍は法323条の厳格な証明枠で採用しながら、より伝聞性の問題の大きな供述録取書を自由な証明枠で採用するという二枚舌。

どれ一つとっても、まともな裁判官のやることではない。こんな裁判官に「説諭」を受けなければならない被告人が本当に気の毒だと思う。

(弁護士 金岡)