先輩弁護士から御紹介頂いた認容事例である。
かなり珍しいものであり、取り上げさせて頂いた。

路上における強盗殺人被告事件について、その犯行状況等を目撃したとされる近隣住民の供述調書の開示にあたり、供述人の住所及び氏名を被告人に知らせてはならない旨を検察官が条件付けした(刑訴法299条の3第4項)措置に対し、弁護人が、第一には2号違反、第二に1号違反を指摘して裁定を請求した案件である。

裁判所は、要旨「被告人が勾留され、被告人に協力できる親族も既に住家を離れていることに照らすと、検察官が言うほど1号のおそれは高くない」としつつ1号違反は否定し、他方、2号違反の主張に対しては、要旨「利害関係や偏見の有無を検討するには被告人に供述人の住所氏名を伝えなければならないのだから、本件措置は、防御に実質的な不利益を生じさせるおそれがある」とした。
身体拘束にかかる裁判同様、否認事件で不利益な供述をしている場合というだけで1号の「おそれ」を認めている点はお粗末だが、2号の判断は至極、真っ当である。

ところで、このような決定に接して思うのは、「利害関係や偏見の有無を検討するには被告人に供述人の住所氏名を伝えなければならない」という裁判所の指摘に、弁護人はどれだけ応えられているだろうか?ということである。
記録を謄写しようとしない弁護人もいる。気になったところをちょこちょこメモして接見して、では、上記に応えられているとは到底、言えまい(法テラスが、いっかな、被告人用の記録の複写費用を認めようとしないのは別の問題である)。
経験上、住所がマスキングされた供述調書が証拠請求された場合や、ひどい時には証拠カード上に証人の住所の記載が無いまま、弁護人が安易に証拠意見を述べているような事態も目にするところである。怠慢による責問権放棄である。
このような弁護実務が変わらないと、本件の決定のような真っ当な判断すら、現れなくなるかも知れない。

きちんとした実務を愚直に行う、そのため、類例が少なかろうとおかしなことにはおかしいと声を上げること、そのことの大切さを改めて確認できた。「中身から分かるからまぁあいいか」とか「波風立てなくても実害は大きくないかも・・」といった、阿る弁護人では、駄目なのだ。

(弁護士 金岡)