それなりの規模の事件ではあるのかも知れないが、押収されて一月半が経過するのでなんとかならないか、と言われ、押収物還付請求を受任した。
請求段階で2割くらいは返ってきたので残りを準抗告したところ、更に2割くらい返ってくることになった。
捜査初期の段階での押収物還付請求の準抗告、というのは記憶にある限り、余り経験していない。その意味で決定は興味深かったのだが・・。
まず「押収の必要性」に関しては、「本件の被疑事件が相当程度の内容と規模を有するものであること、事件関係者や参考人になると見込まれる者も多く存在するとうかがわれること、その他本件事件前後の状況や経過等にも照らすと,いわゆる罪体のほか、事件の動機、経緯や背景となった事実関係等を含め、本件の事案を解明するに当たっては、種々の捜査を綿密から慎重に実施することが必要不可欠と考えられる。」という枠組みが設定されたために、多くが具体的理由を示されることもなく追認されてしまっている。
これでは自ら司法審査を否定しているに等しい。無関係じゃないかと疑義を呈されている以上、「かもしれない」に逃げ込んで個別審査を怠るようでは話にならない。依頼者の戸籍類はそれでも準抗告が認容されているが、種々の資格証明書など然るべき機関に於いて記録がある証書が戻ってこないというのも理解しかねる。
次に「留置の必要性」。
「捜査の現段階において、これら相互の関係等をみながら内容を精査し、一応の証拠価値を検討するとともに、必要に応じて写しの作成等をするのに時間を要することは、ある程度やむを得ないものといえること、その一方、捜査機関においてもこれらの作業等を順次執り行つているとうかがわれ、そこに特段の解怠というべきものは見出し難いこと等も併せ考慮するならば」として、一月半経過している現時点でも留置の必要性が否定されないと判断された。
被押収物ごとに被処分者における必要性が異なるとすれば、上記の「順次」なるものを捜査機関に丸投げして良いとは思われない。一月半の間に通帳の写し一つとれない、前記資格証明の類の写しもとれない、というのはどういうものだろうか。「特段の懈怠」ではなく、比例原則に見合った最善を尽くしているかどうかが問題とされるべきではないのだろうか。疑問は尽きない。
なお、「建物の鍵」については、「当面、還付せよ」という仮還付命令が出たのだが、「当面」ってなんだろう?と困惑した。
すると、捜査側で「還付しますよ」とのことで落着した。
結論。
一例で決めつけるのも乱暴だが、勾留の2号事由と同じく、捜査機関を追認するのが前提になっている限り、まともに機能しないなぁと言うところである。
(弁護士 金岡)