件名自体は今更の感があるが、本欄2018年11月13日付け「被害者参加人の心情意見陳述と、異議」において、証拠となっていない資料に基づく事実関係の指摘を被害者参加人が意見陳述で行い、繰り返し、異議を申し立てることとなった事案を取り上げた。
同記事において、「被害者参加人代理人弁護士は終始無言であった。」「事前に一緒に原稿を作成したのだろうから、どうしてその段階で、証拠にないことは言えないということをきちんと助言できなかったのだろうか。」と、被害者参加人代理人弁護士を批判したところである。
近時、愛弁の会報(本日現在、最新号の「ソフィア」)において、その案件を被害者参加人代理人弁護士本人が報告していると思われる記事(今枝隆久弁護士執筆)を目にした。
それによれば、要旨、検察官が主張立証しようとしなかった書証の内容を、被害者たっての希望で陳述した、ということである。
適式な取り調べを経ていない書証は、証拠能力が無いものと扱われる。その由縁は、不可避に誤りが介在し得る伝聞証拠に対し、反対尋問による検証過程がなく、事実認定権者をして事実認定を誤らせる危険があるからである。反対尋問権が憲法上の権利であることに照らせば、かかる書証を法廷に顕出できないことは憲法上の要請であるし、適正な刑事裁判のために不可欠の装置である。このような近代の刑事裁判の根本にして憲法上の要請を、被害者保護の名の下に踏みにじる動きがあると言うことに、驚かされるし、それを助長する弁護士がいる等と言うことに、更に驚きを禁じ得ない。
憲法、裁判を歪めてでも被害者保護を押し通そうという姿勢は、実に、実に軽蔑に値する。
(弁護士 金岡)