かつて本欄で「下には下がいる」趣旨の裁判所批判を行った記憶があるが、その記録を更新すると言ってよい裁判に遭遇した。
浜の真砂は尽きるとも・・救いようのない裁判は後を絶たない。

顛末はこうである。
被疑者複数名の傷害等被疑事件が発生した。
X日に、被疑者Aと被疑者B(立場は同格としておこう)が出頭したが、時間差から、被疑者AはX+1日に勾留され、被疑者BはX+2日に勾留された。
各満期日に勾留延長がされたのであるが(当初勾留も勾留延長自体も理解しがたいが、その点はさておく)、被疑者Aは「金曜日まで8日延長」となり、被疑者Bは「月曜日まで10日延長」となった(被疑者Aを10日延長すると、最終日が日曜日になるが、出だしが一日ずれた被疑者Bは最終日が月曜日になる)。
私は被疑者Bの弁護人である。

さて、被疑者Aも被疑者Bも、延長に対する準抗告を申し立てたところ、名古屋地方裁判所刑事第5部(板津正道裁判長)は、全く同じ理由により、これを棄却した。
曰く、「本件事案の真相を解明して被疑者について適正な処分を行うためには、本件の罪体、共謀状況、犯行の動機等について、携帯電話機を含む証拠物の解析精査、共犯者・被害者らの取り調べ等を行った上、これらを踏まえて被疑者を取り調べる必要がある」から勾留延長はやむを得ないというのである。

仮に、千歩万歩譲って、「携帯電話機を含む証拠物の解析精査、共犯者・被害者らの取り調べ等を行った上、これらを踏まえて被疑者を取り調べる」という捜査の基本中の基本を10日で尽くせないことが「やむを得ない」という見地に立ったとしても(前二者のごとき基本中の基本の捜査は原則通り10日で終えろというのが刑訴法の規範であることは明らかだと思う)、解明すべき「事案の真相」は、被疑者ABで共通して一つの筈である。
つまり被疑者Aについて金曜日には「事案の真相」が明らかになるとして8日の延長に止めたのであれば、その時点で被疑者Bの「事案の真相」も明らかになっているはずであるから、被疑者Bが更に土曜日~月曜日まで3日も余分に勾留される「やむを得ない事由」はどこにあるのだろう??

全く論理性がなく、控えめに言っても屑籠に投げ込むのが相応しい決定である。

更に悪いことに、被疑者Bの準抗告申立書中では無論、上記の非論理性を指摘していたのだが、前記準抗告審決定は、そのことに触れなかった。被疑者Aの「事案の真相」解明後、更に3日、前記のような基本中の基本の捜査事項を更に重ねなければならない理由や、それが被疑者Aの「事案の真相」解明前では不可能な理由は、一切、明らかにされていない。
自身の出したい結論に不都合な事情は無視する、というのは裁判所のお家芸で食傷気味どころか完全に食べ飽きているが、まあ、その類と言うしかない。
つまるところ、下には下がいる、のである。

(弁護士 金岡)