「自力での歩行や食事はできない状態」の被疑者は、勾留要件を充たすのだろうか。
2号事由は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」である。
3号事由は「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき」である。
「・・おそれ」との言い換えが目立つが、大方は御承知の通り、戦後間もなくの刑訴法改正論議の中で、「・・おそれ」では「すべての場合に多少このおそれはある」から恣意的に身体拘束を許すことになるという懸念が示され、その結果、「相当な理由」と表現が改められた経緯がある。
このあたりの議論は、既に先賢の弁護士が種々の文献で指摘されているところであり、私がしたり顔で言うべきことではないが、本稿を書く上で改めて、1948年6月あたりの国会議事録を読み直し、その瑞々しさに感銘を受ける。
因みに上記のような懸念に対し、政府委員が「この刑事訴訟法が出來ますれば、その全体のにじみ出た精神によりまして」運用が改まるはずだと強調しているのが面白い。爾来、70年以上が経過しても、改正刑訴法の精神は滲み出るどころか、乾ききっている感がある。
閑話休題。
「自力での歩行や食事はできない状態」の被疑者は、自力では移動できないし、生きても行けない。特殊な背後関係でも無い限り、医療機関から行方をくらますと言うことは不可能だろうが、にもかかわらず「すべての場合に多少」備わる限度を超えて、客観的に見て誰が見ても懸念されるくらいにまで逃亡が懸念されると、判断された理由は何だろうか。
また、そのような行動圏しか持たない被疑者が、その一室で、なにをどうすれば(それも実効的な)罪証の隠滅が可能になるのだろうか。
見当が付かない。
もし2号、3号に基づく勾留であるなら、戦前並み、ということだろう。
(弁護士 金岡)