といっても、被疑者取調べに立ち会えたわけではなく、検察庁での任意取調べに同行して間近で待機していたところ、案の定、黙秘権行使断念への働き掛けが行われたので、被疑者本人が話すよりも私が話す方が早いと、許可を得て乗り込んだものである。

担当検事曰く、例えば「有利なことだけでも話すように」説得していた、と平然と仰る。飲酒が絡んで事件時の記憶が無いという案件であるが、せめて「事件後は飲酒を止めたかどうか」だけでも供述に応じるべきだと。

一見して不利益がないように感じるかも知れないが、それは黙秘権への理解の浅さを露呈している。有利なことは供述する、というのは、黙秘権を行使する局面は不利だ、と述べているのと同義である。それでは黙秘権行使は真価を発揮しない。
また、何が有利か不利かを、依頼者に判断させることは、弁護人としては無責任の極みだ。隣にいて弁護人が判断できるならまだしも、そうでないなら、そのような時として困難を伴う判断を依頼者に委ねることは愚策である(仮にどうしても、飲酒を止めた事実を強調したいなら、弁護人が所要の資料を作成して提出すれば良いことである)。
そういったことを担当検事に説明し、事前に伝えた5分を超えて10分にも亘ろうという取調べを打ち切るよう、交渉した。どうにも理解されず、取調べを更に続けたいと平行線を辿ったが、「実はその前日、既に被害届が取り下げられている」と説明したところ、急にやる気を失ったようで、(「黙秘します」調書も作らず)その場はお開きとなった。
続きをやりたければ連絡を、と伝えおいたが、その代わりに不起訴結果告知が届いた。

(弁護士 金岡)