松本俊彦編、日本評論社。
「薬物依存症を捉えなおす13章」の副題を持つ書籍である。
最近、読んだものの中で最も印象に残ったので取り上げたい。
故・高野嘉雄弁護士が継承発展させた「更生に資する弁護」を及ばずながら模倣してきた一人として、薬物事犯の弁護人に為し得ることを、それなりに考えてきた自負はある。単純な発想として、原因が分かれば対処方法も分かり、再犯を断ち切れるのではないかと原因を探り、精神科医や臨床心理士に分析を求めたことも一再ならず、ある。勿論、ぽっと出の弁護士の一時的な関わり(刑事事件終了後も関わり続けることの有用性は頭では理解しているが、いっかな行動が伴わないのが実際のところである)で万事が解決するはずもないが、見出した原因に処方箋を出して実践して貰う程度のことはやれてきた筈だ。
本書は、冒頭に、「さらなる厳罰化を望むのは、サイエンスよりもイデオロギーを重視する態度を表明することに他ならない」「薬物とは別のところに困りごとがあるからだ」との視点が示され、薬物問題に関する考え方を改めるよう迫るところから始まる。
起用された一線級の研究者と臨床家(社会学者や法学者も起用されているのに法曹実務家が起用されていないことは~適任者がいないわけではないと思うだけに~実に残念である)の小論の中で関心を惹いたのは、薬物使用者を被害当事者として位置付けて捉え治す試みと、(私の理解によれば関連する文脈に筈であるが)ハームリダクションの考え方である。
ハームリダクションは、要するに薬物使用によるネガティブな影響を最小化する実践等であり、正義と人権に根ざす。前向きな変化、当事者とともに活動することに焦点を合わせ、ジャッジせず、強制せず、差別せず、薬物を止めることを支援の前提として求めないこと、だそうだ。
西岡誠氏が「ベストからノットワーストへ」と述べられた点は、表現ぶりよりも深いように思われる。「1年6か月・執行猶予3年、次は1年の実刑」みたいなお役所仕事は勿論、ちょっと処方箋を書いて良い気になっている弁護人(=私など)も、反省を迫られよう。
(弁護士 金岡)